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東京簡易裁判所 昭和34年(ト)356号 決定 1959年10月16日

債権者 後藤麟也 外三九名

債務者 東京地方裁判所支出官 石田和外

主文

本件仮処分申請は、却下する。

申請費用は、債権者等の負担とする。

理由

第一、申請の趣旨

債権者等代理人は、「債務者は債権者等が毎月俸給支払定日に債務者より支払をうけるべき別紙第一の目録俸給標記載の俸給から、同目録控除額標記載の金額を仮りに控除してはならない。」との仮処分命令を求めた。

第二、申請の理由

一  債権者等は、いずれも東京地方裁判所または東京簡易裁判所に勤務する職員であつて、裁判所共済組合の組合員として、毎月俸給支払定日に、同組合に対し、掛金支払債務を負うものである。

二  債務者は、東京地方裁判所支出官として、国家公務員共済組合法第百一条にいう給与機関の地位にあり、毎月俸給支払定日に、組合員たる債権者等の給与から、掛金相当額を控除して、これを組合員に代つて組合に払込まなければならない職責を有する。

三  債権者等は、昭和三十四年五月十五日、法律第百六十三号国家公務員共済組合法の一部を改正する法律の施行にともない、あらたに、長期給付に関する規定の適用をうけ、長期掛金を支払うことになつたのであるが、その掛金率は、組合の定款によつてのみ定められる(同法第百条第二項)ところ、裁判所共済組合組合員の掛金率については、いまだ裁判所共済組合の定款の変更が行われていないので、債権者等は前記組合に対し、特定額の掛金債務を負担していない。

四  しかるに、債務者は、昭和三十四年十月六日付大蔵大臣の各国家公務員共済組合代表者宛「長期給付の掛金率の改訂について」と題する通達並びにこれに基く前記組合代表者を代理する最高裁判所人事局守田直の指示により、なんらの法律的根拠に基くことなく、同年十月分からの掛金率を俸給額の一千分の四十四と定めて、これを、債権者等からそれぞれ控除する方針を決定し、別紙第一目録俸給欄記載の俸給から、同目録控除額記載の金額を控除すべく、現にその計算作業を続けている。

五  債権者等は、かねて俸給が低額であるために、その生活は困窮しており、なんらの法律上の根拠なくして、その俸給手取額を削減されることは、生活上、到底たえられるところではない。

六  よつて、債権者等は、前記組合並びに債務者に対し、掛金債務不存在確認並びに掛金控除禁止請求訴訟を提起するため準備中であるが、債権者等の俸給支払定日は毎月十六日に定められており、右支払定日は目前に迫つているから、取りあえず、本件仮処分の申請に及ぶ。

第三、当裁判所の判断

債権者等は、昭和三十四年五月十五日、法律第百六十三号国家公務員共済組合法の一部を改正する法律の施行にともなう長期掛金率について裁判所共済組合の定款の変更手続が行われていない旨主張するけれども、甲第一号証、第二号証及び第六号証をもつてしても、右事実を疎明することができない。かえつて、その成立を推認しうる乙第一号証の一、二、乙第二号証によれば、裁判所共済組合は、昭和三十四年十月十五日、別紙第二記載のとおり、「裁判所共済組合定款の一部を改正する定款」を定め、同日、大蔵大臣に対し、認可の申請をし、同大臣は、即日、蔵計第三〇六〇号をもつて、右申請のとおり、これを認可したことが一応認められる。

ところで、国家公務員共済組合法第六条第二項の規定をみると、本件のような掛金に関する事項の定款変更は、大蔵大臣の認可をうけなければ、その効力を生じないし、また同条第四項は、大蔵大臣の認可をうけたときは、遅滞なく、これを公告しなければならないと規定している。そして、本件においては、組合において、いまだ、右第四項に従い、裁判所共済組合定款第六条に定める公告手続(官報掲載)を完了していないことは、債務者の自ら認めるところであるが、前記第六条第二項の文理並びに、共済組合の性格上同法には、公告により利害関係人になんらかの権利行使の機会を附与すると同時に、これに応ずる措置を怠つた場合の法律効果に関する規定が存在しないこと等を勘案すれば、右定款の変更は、大蔵大臣の認可により組合員に対する告知を要せずして即時効力を発生し、右公告は、定款改正の周知徹底を図るための単純なる公示方法たるにとどまり、公告手続の有無は、その効力を左右するものではないと解するのを相当とする。

それならば、前説示のとおり、前記「裁判所共済組合定款の一部を改正する定款」は、一応有効に成立したものというべきであつて、債権者等の本件被保全権利の存在に関する主張を肯認することはできないから、債権者等の本件仮処分申請は、この点に関する疎明を欠くこととなるのであるが、もとより本件においては、保証をもつてこれに代えることも適当でないから、進んで、保全の必要性について判断するまでもなく、理由がないものとして却下するほかない。

よつて、債権者の本件仮処分申請は却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 寺沢光子)

別紙第一目録<省略>

別紙第二<省略>

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